サンドラ「…」
ミラ「…」
モニカ「…」
アイアンハンド「…騒ぎ声がしたが、また喧嘩か?」
アイアンハンド「俺は英気を養えとは言った。だがな、それの使い所を間違えられちゃあ困るんだよ」
アイアンハンド「作戦決行の日も近付いてんだ。あんまり考えなしに暴れるようなら、またゲンコツ食らわしてやるからな」
サンドラ「…」
アイアンハンド「…おい、聞いてんのか?」
アイアンハンド「おい!…って、んン?」
サンドラ「…やあ。久し振りだね」
アイアンハンド「…テメェは…」
サンドラ「…ボクが誰だか、わかる?」
アイアンハンド「…生きてやがったとはな、サンドラ…。あの時の小娘が、随分デカくなったもんだ」
サンドラ「…覚えててくれてるとはね」
アイアンハンド「テメェのことは忘れてねぇよ。忘れるはずがねェ」
アイアンハンド「あんなにいい声で鳴く女なんてそういねーからな。テメェが逃げた時、崖から落ちて死んじまったって聞いた時は心底残念だったよ」
サンドラ「…ッ」
アイアンハンド「今更戻ってきて何のつもりだ?まさかヨリを戻してぇって訳じゃねぇだろ?」
アイアンハンド「お前、随分と女を上げたじゃねぇか。特にその胸、デカくなりすぎだろ!…いいぜ?戻りてえって言うなら歓迎してやる。逃げやがったことは水に流してやるさ」
サンドラ「…ふざけるなッ」
サンドラ「ボクがこれまでどんな思いをして生きてきたか、お前にはわからないだろう!!」
サンドラ「…わかってもらう必要もない。お前は今日、ここで死ぬんだ…!」
アイアンハンド「…ククッ…クフフフフフ」
サンドラ「…何がおかしい」
アイアンハンド「いやぁなに、今のカッコつけてるお前を見てるとよ、いつも泣き喚いてばっかりの、あの頃の姿が目に浮かんでよ」
アイアンハンド「その落差?ギャップっていうのか?それが面白くて面白くてよ!笑いが止まらねぇ」
サンドラ「…今の自分の立場、わかってるのか?お前の仲間は全員死んだ。ボクたちが殺した。残ってるのはもうお前だけなんだぞ!」
サンドラ「直に衛兵隊もやってくる!ハジバール、お前はもう終わりなんだ!!」
アイアンハンド「…ああわかってるさ。仲間は全滅、計画も台無し、信じ難いことだが、これぞ絶体絶命って奴だな。…だが、それがどうした?」
サンドラ「…何?」
アイアンハンド「仲間がいねぇって言うんなら、また集めりゃいい」
アイアンハンド「衛兵共が乗り込んでくるって言うんなら、今ここでお前を殺してさっさと逃げればいい」
アイアンハンド「俺はハジバール・アイアンハンド!!アイアンハンド団には他に何も要らねぇ」
アイアンハンド「俺さえ生きてりゃいい。俺さえ生きてりゃあ、いくらでもやり直せる!!まだ終わってなんかいねぇ!!」
サンドラ「…呆れた。この状況でよくそんな虚勢が言えたものだ」
アイアンハンド「虚勢?虚勢なんかじゃないさ。確たる実力の元に裏打ちされた自信ってやつだよ」
アイアンハンド「むしろお前の方じゃねぇのか?虚勢を張ってるのはよ。気付いてねぇかもしれねぇけどよ、手、震えてるぜ?」
サンドラ「…ッ!」
アイアンハンド「強がったって根っこは同じさ。どんなにデカくなったところで、お前は小娘のままだ。俺の前じゃ泣き喚き、許しを請うことしかできねぇ。昔のままなのさ」
アイアンハンド「もう一度それを、思い知らせてやる」
サンドラ「…ミラ、モニカ。さっきも言ったけど、手出しは無用だよ」
モニカ「…」
ミラ「…サンちゃん…」
サンドラ「これはボクの戦いだ。ボクがやらなくっちゃあならない。ボク自身の手で終わらせなくちゃいけないんだ」
サンドラ「ハジバール、この時をずっと待っていた!お前と剣を交える時を!お前をこの手で殺せる時を!」
サンドラ「今こそ、決着を着ける!!!」
ブゥンッ
ガキィン!!
サンドラ「くっ…!」
アイアンハンド「サンドラ、てめぇ…その剣、どこで覚えた」
サンドラ「教えてもらったことなんてないよ…自分なりに鍛錬を積んできたんだ。お前を殺すために!」
アイアンハンド「我流ってか…?ハッ!まさかてめぇにそんな才能があったとはな」
アイアンハンド「こりゃぁもったいねぇことをしたなぁ?それを知ってりゃあ、お慰み以外にも使ってやったかもしれねえってのによ!」
サンドラ「…ッ、減らず口を…!まだまだ、ボクの力はこんなものじゃない!」
アイアンハンド「おもしれぇ!今度はこっちからいくぜぇ!」
アイアンハンド「おりゃああああっ」
サンドラ「なんのっ!」
アイアンハンド「チッ、確かに、いい腕だ!とても我流とは思えねえ。それは認めてやる」
アイアンハンド「だがなぁ、剣の先輩としてひとつアドバイスをしてやるぜ…振りが大きすぎるんだよてめぇは!」
サンドラ「!」
アイアンハンド「そこだぁっ!」
ブオォンッッ
サンドラ(この振り下ろしは…ヤバイッ!!)
ガァァアアンッ…!!
サンドラ「うッ…ぐ…っ!」ビリビリビリビリ
アイアンハンド「いいか、振りのデケェ一撃ってのはこう使うんだ。何も考えずに振り回せばいいってもんじゃねぇんだよ!」
アイアンハンド「休んでる暇はねえぜ、サンドラ?まだ俺の番は終わってねぇ!」
サンドラ「くそ…っ!」
ガキィン…
サンドラ「う…ッ!そ、そんな…っ」
アイアンハンド「おいおい、どうした?今のはそんなに力込めてねえぞ?」
サンドラ(さ、さっきの一撃で…腕が痺れて…力が入らない…ッ!)
アイアンハンド「もう少し楽しませてくれると思ったんだがなぁ?ほれ、もう一撃だ!」
サンドラ「…っ!」
カァァアァァアァアン……
サンドラ「しまっ…!け、剣が…!」
サンドラ「そ、そんな…っ」
アイアンハンド「…フン、終わりか」
アイアンハンド「俺を殺すために生きてきたっつー割には大したことねぇな…その程度の力で俺に勝てるとでも思ってたのか?」
アイアンハンド「だとしたら俺を見誤りすぎだぜ。俺が何故アイアンハンドと名乗っているのか、それをもう少し考えたほうが良かったな」
サンドラ「くっ…ボクのこれまでは…全部無駄だったっていうのか…」
アイアンハンド「ああ無駄だよ。無駄無駄。復讐なんぞ考えずに、怯えて隠れて生きてりゃあよかったのさ」
アイアンハンド「折角俺の手から逃れられたってのに、馬鹿な真似をしたな。サンドラ」
アイアンハンド「お別れだ。最期にお前の悲鳴、久しぶりに聞かせてもらおうじゃねぇか」
サンドラ「…っ」
ヒュッ
アイアンハンド「…んなっ!?」
モニカ「悪いわね、サンドラ…さすがにこれ以上は見てられないわ」
アイアンハンド「…てめぇら…手は出さねえんじゃなかったのかよ」
モニカ「…私たちは一度もそんなこと言ってないわ。あなたが勝手に思い込んでいただけでしょ?」
サンドラ「このアマ…ッ!」
サンドラ「やめろ、モニカ…!これはボクの戦いなんだ…!」
ミラ「サンちゃんのアホ!どアホ!大アホ!!」
サンドラ「み、ミラ…キミまで水を差すのか…っ」
ミラ「いつまで意地張ってんねん!意地を張るんは別に構へん!でもな!意地張って死ぬんはアホや!アホのやることやで!」
サンドラ「…アホでも構わない…ボク自身の手で、ボク自身の命でケリを付けるんだ…」
ミラ「あーもう!自分もうええわ!話にならへん!」
ミラ「これだけは言うとくでサンちゃん!サンちゃんは独りやない!ウチらがおる!仲間がおんねん!」
サンドラ「…仲間…?」
モニカ「そういうこと。全部自分独りで背負う必要なんてないわ。後は私たちに任せない」
サンドラ「……」
ミラ「さあーおっちゃん!覚悟しいや―!次はウチが相手やー!」
アイアンハンド「ひ、卑怯な真似を…!こんなの聞いてねぇぞ…ッ!…!」
モニカ「山賊のあなたにだけは言われたくないわね」
アイアンハンド「ち、畜生!やってやる!お前ら二人くらいどうってことねえ!俺はアイアンハンドなんだ!!」
ミラ「お姉の矢効いたんやろ?動き遅いでおっちゃん!くらえ盾殴り!」
アイアンハンド「う、うぐ…っ」
ミラ「胴体がら空き!!行くでえええええ!!」
ミラ「おりゃ―――――っ!!」
アイアンハンド「うぐおおおおおおおおおおっ…!」
アイアンハンド「そんな…この俺が…俺は…アイアンハンド…だぞ…てめえら…よくも…こんな…」
アイアンハンド「サン…ドラ…てめえ…てめえ…だけは…」ガクッ
__________
サンドラ「…ありがとう、ミラ、モニカ。キミたちの助けがなかったら、ボクは何もあのまま死んでいただろう。でも…」
サンドラ「くだらない意地、と思うかもしれない。…それでも、アイツとだけはボク自身の手で、ボク自身の力だけでケリを着けたかった…」
モニカ「水を差したことは謝るわ。…でも、あなたを見殺しにするなんてできなかった」
ミラ「さっきはアホなんて言ってごめんな?でも、ウチらホンマにサンちゃんのこと心配やってん…」
サンドラ「…仲間、だからかい?」
モニカ「…ええ、そうよ」
サンドラ「…これまでのボクにとって、仲間なんて目的を遂げるまでの一時的な付き合い、仕事上の相手でしかなかった」
サンドラ「…キミたちも、それと同じだと思っていた。でもキミたちが言う仲間っていうのは、違う意味だったんだね」
ミラ「仲間っていうのは、楽しいことも辛いことも、ぜーんぶ分け合える!大事な友達なんや。ウチはそう思ってる」
サンドラ(仲間…大事な友達…か。今は色々と複雑な気持ちだけど、これだけはわかる)
サンドラ(ボクは今は、独りじゃないんだ)
サンドラ「…ありがとう、二人とも。少し気分が落ち着いたよ」
サンドラ「いつまでもこうしちゃいられない。行こう」
サンドラ「ウルフルのことも心配だ。彼を放ってはおけない」
モニカ「ウルフル…あの老爺ね。決して悪い人じゃないようだけど…アイアンハンドの一味であることに変わりはないわ。どうするつもりなの?」
サンドラ「衛兵が乗り込んでくる前に安全な場所まで逃がすつもりだよ。その後はボクが面倒を見る。彼の顔は割れていないハズだから、後は静かに暮らせるだろうさ」
モニカ「…わかったわ。夜明けには衛兵が様子を見にやって来る予定よね。早く彼の所へ行きましょ」
__________
サンドラ「ウルフル、戻ったよ!さあ、ここを出よう!」
サンドラ「…ウルフル?ウルフル!!」
ウルフル「サンドラ…は、早かったのう…」
サンドラ「ど、どうしたんだいウルフル!?ど、どこか悪いのかい?」
ウルフル「まったく…アイツは相変わらず薬の調合が下手くそよの…お前さんが戻ってくる前には終わっておるはずだったんじゃが…」
サンドラ「な、何を言って…?…!!…そ、その手の粉末は…まさか…」
ウルフル「…うむ、まあ…毒じゃよ。一味の中に薬師がおった、じゃろう?あやつに作ってもらったんじゃが…」
サンドラ「どうしてそんなことを…!ようやく自由になれるっていうのに!」
ウルフル「お前さんのことは…わかっておるつもりじゃよ…ようやく…新たな人生を歩み出せようというのに…老いぼれが迷惑を掛ける訳にはいかん…」
サンドラ「そんな…そんなこと…!…何も死ななくたって…!」
ウルフル「…わしはもう疲れた…。何も映らぬ目、老いさらばえた身体…ならず者どもの情けを享けながら惨めに生きる毎日…」
ウルフル「連中がわしの前でどんな非道を行おうと、哀れな娘が助けを求めようとも…わしにはどうすることもできなかった。わしは何もしようとしなかった…」
ウルフル「…これはけじめなんじゃ。お前さんが気にする必要はない。…お前さんは、お前さんの道を歩めばいい」
サンドラ「…ウルフル…」
ウルフル「う…うぐうぅぅぅぅうう…ぐむむむぅぅ…」
サンドラ「ウルフル…!」
ウルフル「よ、ようやく毒が回ってきた…ようじゃ…の…。サンドラ…お前さんには苦しむ姿は見られとうなかったんじゃが…」
ウルフル「…まあ、よいわ。…お陰でこうして…きちんと別れを告げることが、できる…」
ウルフル「よいか、サンドラ…。わしのことも…アイアンハンドのことも忘れろ。これからの人生は…お前だけのものじゃ…」
ウルフル「幸運を…祈っておるよ…サンドラ。達者…で…な…」
サンドラ「ウル…フル…っ!」
モニカ「…」
ミラ「…」
サンドラ「………二人とも、行こう」
モニカ「…大丈夫なの…?」
サンドラ「そりゃ大丈夫…な訳ないけどさ…それでも行かなくちゃ」
サンドラ「ウルフルは最期までボクのことを思ってくれた。その思いに応えなくちゃならない」
ミラ「サンちゃん…」グスッ
サンドラ「キミが泣いてどうすんのさ。ほら行こう。衛兵たちもそろそろ着くはずだ」
サンドラ(ウルフル…ありがとう。ボクは生きるよ…自分の人生を。自分だけの人生を。しっかりとね)
サンドラ「朝焼けか…綺麗だね…」
戦いは終わり、陽はまた昇る。彼女たちの人生は、まだまだこれから。
To be continued...
コメント
コメント一覧 (2)
素晴らしいカス魂!
それに相応しい死に様がとても爽快でした!ヽ(=´▽`=)ノ
奴は最低、見晴らしは最高、ですね
コメントアリシャス!!リンクもアリシャッス!!ハジバール勝手に殺しちゃってすみません><
いや違うんすよ、アイアンハンド編書き始めた後にそちらで主役張ってた事に気付いて…は、ハジバールさん!そっちの世界では頑張ってくださいねー応援してますから(汗)